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2020.04.30 | 弁護士ブログ

本当に頸椎捻挫??

弁護士であれば、そして交通事故を取り扱う弁護士であれば誰もが知っている有名な判例があります。 追突で被害が甚大であった場合に「損害の公平な分担」の見地(注・文言は異なります)からいわゆる素因減額といって、損害の全てを加害者に負わせなくてもよい、という平成8年10月29日の最高裁判決です。

ですから、例えば特にお年を召された方や、もともとヘルニアなどの「素因」を有している被害者は重度の身体的苦痛が残ってしまっても十分な賠償が得られない場合が多いものです。

 

ところで、この追突による「頸椎捻挫」、あの有名な判例は、本当に頸椎捻挫だったのでしょうか? (ここで保険会社勤務の方は「大げさ」か「嘘ばっかり」とか思う方が多いかもしれません^^;)

本当に頸椎捻挫かどうか、という問題は、いわゆる「軽度外傷性脳損傷」だとか、「脳脊髄液減少症」だったのではないでしょうか、という疑問です。

脳脊髄液減少症とは、追突などにより背中に衝撃が加わった際に、脳みそとか背骨とかを包んでいるお豆腐の水のような液が漏れることで脳が沈下し、激しい起立性の頭痛などが起こり、社会生活が困難になる病気です。

また、軽度外傷性脳損傷とは、軽い脳への衝撃で、びまん性軸索損傷が起こり、細かい脳神経が断裂し、排尿障害や味覚障害など、様々な障害がおこるケースです。

前者は今や保険診療が認められており、勝訴判決が多いのですが、後者は立証の壁が立ちはだかりなかなか難しいのが現状です。何といっても画像に現れないことの多い脳の損傷で、意識障害も軽度だという特徴があります。

弁護士になりたての頃、なぜかこうした脳脊髄液減少症や軽度外傷性脳損傷の被害者の方々とご縁ができ、かなり頑張りました。東京地裁の交通事故の専門部に訴訟提起するとあっさりと冷たい判断になりそうだったのですが、幸い八王子支部(当時)とか、立川支部だったことから、比較的丁寧に審理してくださった結果のことです。

その病気が認知され始めた段階だったので、判例も文献も少ない中、手探りでお医者様に意見書作成に協力していただいたりして結果的には双方ともにかなりの高額賠償を勝ち取ることができ、非常に喜んでいただきました。

ただ、最近では、脳脊髄液減少症については健保治療が認められ、ブラッドパッチが健康保険を使ってできるようになったことからこういう病態がある、ということは認知されてきたので、大分立証の壁が低くなったように思います。。

 

で、浮上する疑問点。前述した最高裁判決の被害者さんは、もしかしたら「素因」に起因した「重度の頸椎捻挫」などではなく、脳脊髄液減少症とか、軽度外傷性脳損傷とか、はてまた別の何か認知されていない病態だったのではないかという点です。 今となっては真相は闇の中ですが、被害者には何らの過失がない追突という事故で一気にひどい症状に見舞われたのにこれを慰藉するに十分な損害をもらえなかった被害者さん、頑張った弁護士さん、その心痛はさぞかし、と思うと胸が痛みます。

ただ、現在は、昔よりは裁判官にわかってもらえる時代になったのではないでしょうか。 この二つの傷病についての経験は、またアップしたいと思います。

鈴木

 

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